ごみ家電宝の山

　　

家庭で不用になったデジタルカメラやゲーム機など、小型の家電・電子機器に含まれる希少金属（レアメタル）を取り出し、再利用を図る試みが始まっている。リサイクル義務のないこうした家電は、ほとんどの自治体で不燃・粗大ごみになっている。しかし、レアメタルは産出国が限られ、価格も高騰。リサイクルへの関心は高まっているがコストなど課題も多い。

　　青森県境にある秋田県大館市。スーパーや公民館の入り口には、市が設置した「こでんリサイクル」回収ボックスがある。「こでん」とは古い小型の家電や電子機器のこと。市民がいらなくなったドライヤーや電話機などを入れていく。買い物に来た男性（６８）は「使える部品があるなら、捨てるのはもったいない」。

　　かつて鉱山で栄えた人口８万人の同市。経済産業省などの助成を受けて０６年１２月、全国で初めての小型家電回収実験が始まった。精錬技術を持つ企業が地元にあることから、

研究者や家電メーカーなどでつくる金属資源リサイクルの研究グループが協力を求め、市もごみの減量化につながると応じた。

　　粗大ごみから市が抜き取った分も合わせた小型家電は０７年四月～今年二月の一年弱で９６２６点、約１７トンに上った。「かつては鉱山の街。金属の価値が分かる人が多い」と、市環境課の成田政則課長補佐いう。

　　世界的に需要増集った「こでん」は、研究グループの代表を務める東北大多元物質科学研究所（仙台市）の中村崇教授のもとで、種類や製造年、各金属の含有量などを調べる。部品は企業秘密の部分も多く、解体してみないとどんな金属が使われているか分からない。「携帯電話などの小型化、多機能化につれ、レアメタルや貴金属が多く使われるようになっている」と名村教授。

　　その結果、埋蔵量が元々少ないレアメタルに対する需要はこの数年、世界的に増えて価格も高騰。独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」のデータなどによると、ステンレスなどに使われるニッケルは５年ほど前で１トン当たり１万ドル（約９５万円）前後だったが、昨年ピック時には５倍以上に。電池などに使うマンガンも９０年代の６～７倍で取引されている。

　　だが、プラチナの９割近くが南アフリカに埋蔵しているなど、多くは地域的に偏っていおり、その国戦略や政情次第で供給が不安定になる恐れも。このため、レアメタルが眠る大量の廃家電は「都市鉱山」と呼ばれ、注目を集めるようになった。

　　リサイクルがうまくいけば、その意味合いは大きい。中村教授によると、大館市の回収実験では最終の３カ月で集まった６・８トンの廃家電を調べたところ、コンデンサーに使われるタンタルが０・５キロ、金も１キロとれるかの性があるという。電極などに使われる合金の銀パラジウムは４キロに上る。パラジウムの年間国内需要は約５０トンだ。

　　リサイクルの試みは広がりも見せている。大館市の実験は１０月から秋田県全域に拡大。北九州市も９月から、小型電子機器の回収を市内の店舗や学校をも窓口にして始めた。東京都は１０月から２ヵ月間、地下鉄の駅など２０カ所に不要になった携帯電話の回収箱を置いている。環境省も今月16日に成立した補正予算に約７５００万円を計上、各地の実験への助成や、リサイクルの効果の検証をする。

　　だが「宝の山」も、「いったん雑多な不燃ごみとして埋め立ててしまえば、リサイクルは無理」と中村教授。どの製品にどれだけのレアメタルがあるのかを把握し、埋め立て前に集める仕組がなければ、「再資源化の道のりは厳しい」という。

　　「採算合わない」課題も多い。大館市の「エコリサイクル」は、同市が回収した製品の分別から精錬までの作業を請け負う。製品の分解はほぼ従業員による手作業。山口潔実社長は「レアメタルの多くは溶融炉に入れる前に分離させておかないといけない」と話す。

　　例えば、合金などにするタングステンを炉で鉄などと分けて取り出す技術はなく、液晶に使うインジウムも一度に大量に取り出せるほど家電を集めないと採算が合わないという。山口社長は「実用化には、だれが費用を負担するのかというコンセンサスが必要だ」と指摘する。

　　中村教授はさらに、大量に取れて採算に見合いう鉄や銅ばかりが扱われ、レアメタルが敬遠されるのでは、と懸念する。「レアメタルのハードルは高い。だが、枯渇する恐れもあるだけに、国などが長い目で取り組むべきだ」と訴えている。

 

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