Mr.Children『I♥U』 ~『深海』から9年。いざ、潜水。~
待ちに待ったMr.Childrenの最新アルバムが、ついに発売日を迎えた。
前にも書いたことがあるが、最も好きなミュージシャン(バンド)を1人選べと言われたら、僕は迷わず”ミスチル”を選ぶ。
ミスチルのアルバムをはじめて通して聴く瞬間。
それは、僕にとって、最高に胸躍るひととき。
だから、ニューアルバムをはじめて聴ける今日という日は、僕にとって1年に1回あるかないかの特別な日なのだ。
さっそく聴いてみた。
やっぱり、素晴らしい。いつもどおり、捨て曲なし。
作品の雰囲気自体は、『IT'S A WONDERFUL WORLD』『シフクノオト』と続いた、ここ数年のミスチルの流れを汲んだものだと思う。
悲しみや絶望に覆われることも少なくない日常の中で、それでも、未来への希望や喜びを見出そうとする、そんな優しさや力強さに溢れている。
ただ、『IT'S~』『シフク』の”まとまり感”と比べると、この『I♥U』は、ちょっとゴチャゴチャしている。曲の順番とかも、ここ2作のアルバムとは少し様子が違って、まとまりがない。
そういう意味では、『IT'S』の前に出された、『Q』というアルバムに似ているかもしれない(ちなみに、僕は『Q』というアルバムの持っている、ゴチャゴチャした得体の知れないエネルギーが大好きなのだ)。
でも、アルバムの最後に収められた『潜水』という曲を聴いて(正確に言うと、そのタイトルを見て)、僕が思い出したのは、『深海』というアルバムだった。ミスチルが活動初期に出した、もはや伝説となっているアルバムである。
『innocent world』『Tomorrow never knows』と立て続けに大ヒットを飛ばして、国民的バンドとなったミスチル。その彼らが、人気絶頂の中発表したのが、『深海』だった。
『深海』は、それまでのミスチルにファンが抱いていたイメージを、完全に裏切るものだった。内省的な歌詞、ヘヴィーなサウンド。爽やかなポップソングをミスチルに望んでいた多くのファンたちが、この『深海』を機に、ミスチルから離れていった(ちなみに、僕の中では、このアルバムが日本音楽史上最高のアルバムだと思っているのだけれど)。
その後、活動をいったん休止し、名曲『終わりなき旅』(本当に素晴らしい名曲)で復活。それ以後、彼らの曲は1歩ずつ明るさや希望、純粋さを取り戻していき(その間、桜井さんの脳梗塞でのダウンと、病からの復活という感動的な出来事もあった)、そして昨年の『Sign』で、その歩みはひとつの到達点を迎えた。
そして、満を持して発表された『I♥U』。その最後の曲のタイトルが、『潜水』!?
思えば、『深海』というアルバムは、”ブクブクブク”っと海の底へ潜っていく音が流れて、幕を閉じたのだった。そして、その後ミスチルは、まるで彼ら自身が深海へと消え行くかのように、活動を休止したのだった(彼らが抱えていた”苦しみ”の正体が何だったのかは、他人の僕らには残念ながらわからないけれど)。
まさか、このアルバムは、再び絶望への分岐点となるのか?
そんな胸騒ぎも感じつつ、僕はこの最後の『潜水』という曲を聴いたのだった。
しかし、違った。
これは、『深海』から9年たって、ミスチルがようやく出したひとつの”アンサーソング”なのではないだろうか。
詩の最後の部分に、その答えが出ていると思う。
そうだ 明日プールに行こう
澄んだ水の中 潜水で泳いで
苦しくたって 出来るだけ 出来るだけ
遠くまで あぁ あぁ あぁ
あぁ 生きてるって感じ
あぁ 生きてるって感じ
9年前のミスチル(というべきか、桜井さんというべきか)は、苦しみを背負い込み、それごと深海へと潜っていった。
しかし、それから9年。彼らは、自らプールへと足を運び、水の中へ潜り、そして、その苦しみを「生きてるって感じ」と言い切った。苦しみを、楽しむことができるようになった。
『潜水』というタイトルをつけることにより、ミスチルはようやく、海へ潜っていったかつての自分たちと折り合いをつけることが出来たのではないだろうか。
相変わらず、世界が”混沌”としていることは変わらない。13曲、全ての中に、”混沌”とした状況は何らかの形で描かれている。それ自体は、『深海』と何ら変わらない。
でも、その”混沌”の、泳ぎ方が違うのだ。全てを受け入れ、それをむしろ楽しもうとする。
それが、現在のミスチルの姿なのだ。
7曲目の『CANDY』、11曲目の『跳べ』、4曲目の『僕らの音』など、どの曲も名曲揃いだが、中でも1曲目の『Worlds end』が素晴らしい。
暗闇に包まれた時 何度も言い聞かせてみる
いま僕が放つ明かりが 君の足下を照らすよ
何にも縛られちゃいない だけど僕ら繋がっている
どんな世界の果てへも この確かな思いを連れて
暗闇、混沌、世界の果て。
その中に見出される、力強く確かな、希望の明かり。
『I♥U』というシンプルなタイトルが、とてもとても、胸に響いてくる。