Part2 デジタル家電編(2)――バリエーションをBOMで管理,設計-製造連携で効率化を究める

海外展開や環境対策に取り組む家電メーカーにとって,急速に重要性が高まっている課題がある。それが,BOM(Bill Of Material,部品表)による商品仕様や製品構成情報の管理だ。一部の先進メーカーが着手/検討している取り組みについて,その狙いや仕組みを解説する。

 デジタル家電メーカーの看板とも言えるテレビ事業においては,各社とも,プラズマテレビや液晶テレビの新型を欧州,米国,日本で一斉発売し,世界的な競争はヒートアップするばかりだ。この分野において世界市場に目を向けると,韓国,中国,台湾勢の強さが目立つ。

 携帯電話事業においては,ドッグイヤーと言えるほどの技術革新に呼応するよう,凄まじく短いライフサイクルで新製品を世界に出している。携帯電話は,世界の携帯電話キャリアなどのあらゆる関係者と折衝をしながら,商品開発を進める必要があり事業の進化として2通りの潮流がある。一つはソニーのようにエリクソン社と合弁会社を設立し,世界市場を意識した効率的な新製品投入ができるよう事業強化するケース。もう一つは,カシオのように,国内競合他社との合弁会社(カシオ日立モバイルコミュニケーション)を設立して戦力を増強するケースだ。いずれにせよ,国内需要に頼って事業がジリ貧とならないよう,世界で勝負するための武装に各社とも,生き残りをかけている。

 1990年代までの家電製品の開発では,メーカー各社はベースとなる中核製品を,およそ1~2年のサイクルで新規開発して主力市場に投入し,その後で製品ラインナップの追加や,国・地域の特性を考慮したバリエーション(モデル)の開発を行う,という開発プロセスが一般的だった。

 ところが最近のデジタル家電では,半年ごとに製品ラインナップが入れ替わるところまでライフサイクルが短くなってきている。そのため従来の開発プロセスでは,バリエーションの追加開発を行うころには,ベースとなる製品向けに開発した基本機能が陳腐化してしまい,競合他社と戦える商品力を失うことにもなりかねない。

 そこで今回は,変化のスピードが速いデジタル家電の中でも,特にメーカー間の販売競争がヒートアップしているテレビを例に取り,世界同時立ち上げや環境対策などを視野に入れた製品開発の考え方や仕組みを解説する。

 特に,製品開発プロセスにおける商品企画から設計までの工程を中心に,BOM(Bill Of Material,部品表)を中心とする情報インフラや,一般的な日本のものづくりの手法について説明していく。

製品体系全体で開発を効率化

 デジタル家電の世界同時立ち上げを行うには,製品開発プロセスを見直すだけではなく,資材調達から生産,物流,販売に至るまでのプロセス全体をうまく連携させることが不可欠である(図1)。そのためには,デジタル家電の商品力の大部分を決定する「キーデバイス」をいかに有効に“使い回す”かが,投資回収の面でも,製品開発全体の効率化の面でも,非常に重要だ。

図1●従来の商品開発プロセスと世界同時立ち上げプロセスのイメージ
[画像のクリックで拡大表示]

 そこで家電メーカー各社は,個々の製品単位で開発の効率化を考える「線」の取り組みから,キーデバイスを中心に製品ラインナップ全体で開発の効率化を考える「面」の取り組みへと,製品開発の考え方をシフトし始めている。この変化に伴い,複数のバリエーションの製品情報を横串で可視化し,よりコンカレント(同時並行的)な製品開発に対応できることが強く求められるようになってきた。

 そこで必要になるのが,Part1で解説したPLM(Product Lifecycle Management)の取り組みである。今後のデジタル家電の業界では,PLMの中核であり,プロセス間の情報連携の基盤となるBOMによって,商品仕様や製品構成情報のバリエーション管理や共用化をいかに効率的にコントロールするかが,勝ち負けを分けると言っても過言ではない。

 後述するように,こうした取り組みに着手しているのは,現時点では一部の“勝ち組”メーカーにすぎず,その勝ち組にしても多くの課題を抱えている。だが「BOMを基盤とするPLMへの取り組みは,今後の生き残りをかけた最重要課題である」という認識は,未着手のメーカーも含めて一致している。以下で工程ごとの取り組みの詳細を詳しく見ていこう。

販売地域や生産拠点も考慮

 海外で購入したビデオやDVDを日本に帰ってから見ようとしたら再生できなかった,という経験をお持ちの方もいるだろう。実はテレビの放送方式は各国・地域でまちまちであり,ビデオやDVDも各国の放送方式に準拠した規格で作られているのだ。

 現在,世界で放送されているアナログ放送は,米国や日本などのNTSC(National Television Standards Committee),欧州諸国(フランスを除く)などのPAL(Phase Alternationby Line),フランスを中心とするSECAM(SEquential Couleur Avec Memoire)の3方式に大別されるが,周波数帯や音声方式などを含めると実に多くのバリエーションが存在する。今後,急速な普及が見込まれるデジタル放送も,放送方式は統一されていない。

 世界レベルでデジタル家電の製品ラインナップを展開する際に考慮すべき要素は,放送方式はもちろん,電源電圧や法規制(安全規格,環境規制など)など多岐にわたる。そのうえで,多様化する消費者のニーズに応えるために,シンプルな機能のローエンドモデルから多機能・高品位なハイエンドモデルまで,広範な製品ラインナップを検討しなければならない。

 商品企画や構想設計の工程では,仕向け先(販売地域)ごとの製品ラインナップと商品仕様に加え,どの製造拠点で製造するかということも検討する(図2)。特に製造拠点が海外の場合,製品に使用する部材が現地調達できるか日本からの配給が必要かによって,部材の物流リードタイムや関税・為替といったコスト変動要素を十分に考慮しなければならない。

図2●商品仕様,製品構成,製造拠点の関係(テレビの例)
[画像のクリックで拡大表示]

 家電メーカーの商品開発部門はこうした一連の検討を経て,製品のバリエーションごとに詳細な仕様(商品仕様)を決定する。そして,これらを「商品仕様書」などと呼ばれる1冊のドキュメントにまとめることが一般的である。

技術情報をBOMで管理

 商品仕様が決定されると,設計部門は,製品を構成する各モジュールや部品にどのような機能が必要となるかを検討し,各製品を横串で見て共用化できるモジュールや部品を洗い出したり,主要部品を選定したりする。そして,これらの情報を部品表の形でまとめていく。設計部門が製品構造の設計に用いる部品表を,特に「技術BOM(E-BOM,EはEngineeringの意味)」と呼ぶ。

 技術BOMは「構成情報(Parts Structure,P/S)」と「部品情報(Parts Number,P/N)」から成る。前者は,各製品を構成する「回路/基板部(エレキ部)」と「機構部(メカ部)」が,どのような部品やアッセンブリ(中間組立品)を,それぞれいくつ(員数)使用して成り立っているか,という情報である。後者は,各製品に使用する部品の機能や性能,コストなどの情報である。

 家電メーカーの中には,設計成果物であるCAD(Computer Aided Design)データや図面データを扱うPDM(Product Data Management)システムの一部として,技術BOMを管理しているところもある。特にCADベンダーが提供しているPDMシステムを使う場合は,CADデータと整合性を取って技術BOMを管理できるメリットがある。

 しかし,機構設計や回路/基板設計,LSI設計に必要なCADシステムはそれぞれ異なるので,社内のすべてのCADシステムと密接に連携できるPDMシステムは事実上存在しない。

 そこで先進的な家電メーカーでは,PDMシステムは各CADシステムのデータ管理に特化し,技術BOMは製品情報を統合管理するための「設計マスター・データベース」として構築・活用することが多い。

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