政府の電源論議―欠かせない使う側の視点

2030年をめどとした電源構成(エネルギーミックス)を議論する、経済産業省の作業部会が始まった。どんな電源をどう組み合わせて将来の電力をまかなうのか、6月ごろまでに結論を出す。

 ポイントは①原発をどう減らしていくか②太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーの割合をどこまで高められるか、の2点だろう。福島第一原発の事故を経験した日本の将来像を描く作業でもある。

■原発の下限は15%か

 安倍政権は、昨年4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、今後も原子力規制委員会の基準に適合した原発を使い続けることを決めた。同時に、原発比率を「可能な限り低減させる」ことも明記した。

 原発事故前、全発電量に占める原発比率は28・6%だった。いまある原発は全国に48基。これまでに建設中を含めた21基が規制委の審査を申請し、うち4基の再稼働がほぼ確実になっている。

 こうした原発が動いたうえで、運転年限の40年を順守すれば、30年時点での原発比率は15%前後。一方、一部の原発の寿命を延ばしたり今後の新増設を認めたりすれば、比率は20~25%程度になる。

 いずれも震災前の水準は下回るため、政府は「低減」にあたるとの考えだ。作業部会にも「30年までにゼロ」と考える委員はおらず、今後の議論は「15~25%」の間で進むとの見方がもっぱらだ。

 しかし、下限が15%で果たしていいのか。

 日本は現時点で「原発ゼロ」の状態にある。事故後、一時的に大飯原発(福井県)2基が運転を再開したが、定期検査を迎えた13年9月に再停止して以降、国内の原発はすべて止まっている。

■ゼロの現実踏まえよ

 この間、節電の定着や省エネ化、電力の広域融通などの工夫で、大規模な停電を引き起こすことなく昨夏を乗り切り、今冬もこれまでのところ、大きな問題は生じていない。

 地震国の日本で原発に頼る危うさを考えれば、できるだけ早く原発をゼロにする必要がある。2030年にゼロにすることを目標にしてもいいはずだ。

 「できるだけ原発を使いたくない」という国民の意思は根強い。各種の世論調査でも過半が再稼働に反対だ。もっと再エネを増やしたいと考える人たちも増えている。

 もちろん、老朽火力を無理に稼働させている面はあり、化石燃料の輸入が増えたことによる電気料金の値上げといった深刻な問題もある。

 だが、現状から15%まで引き上げることを前提にした議論から結論を導いても、世論との乖離(かいり)が生じるだけではないか。

■変わる政府の役割

 今後は電力の自由化が進む。

 今国会に、政府は仕上げとなる改正法案を提出する。計画では、2020年までに電気料金の完全自由化や電力会社の地域独占の撤廃、発送電分離が実現する。電気を使う側が電力会社や電源を自由に選べるようになる。料金や環境への負荷といった観点から、使う側が複数の会社や電源を組み合わせて買うことも可能だ。電力会社間には競争が生まれる。

 電源に対する選別も進んで、減らさなければならない電源や、逆に増やさなければならない電源も現れてくるだろう。供給側だけで電源構成を考えれば事足りた時代から、大きく変化する。

 こうした変化はあっても、政府が関与する余地は残る。エネルギー政策を完全に市場任せにするわけにいかないからだ。

 地球温暖化対策のように国際的な要請には、政府が主導して応えていく必要がある。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度でも、値決めは政府の役割になる。電力が国民生活に必要不可欠であることを考えれば、過疎地にも行き渡るようにする支援や、資源価格の急騰といった緊急時の対応など、政府の役割は今後も続くはずだ。

 それでも、政府が決める電源構成の数字の意味合いは変わる。政策の誘導目標的な意味合いはますます強くなり、一定の幅をもった「目安」に変わっていくかもしれない。

 前回、電源構成を決めたのは2010年、民主党の鳩山政権だった。温暖化対策に主眼が置かれ、30年までに14基以上の原発を新増設することが盛り込まれた。その後、東日本大震災で未曽有の原発事故が起き、菅政権は計画の白紙撤回を表明した。そして電力自由化。

 この5年で、エネルギーをとりまく環境は激変した。何より、電気を使うことへの人々の意識が様変わりした。だからこそ、使う側のニーズを十分に考慮しながら、将来の絵図をかく必要がある。

 国民が納得できる議論を尽くしてもらいたい。

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