SEのための提案力強化講座【第2回】--提案のための基礎知識とスキル(上)

提案活動を成功させるためには、顧客が提案を依頼する目的や背景、ニーズを押さえる必要がある。そのために必要な準備段階の作業や留意点、さらにヒアリングやディスカッションなどのスキルを説明しよう。

久井 信也(ひさい しんや)
ソリューションサービス研究所 代表取締役

 提案で重要になるのは、まず顧客がなぜ提案を依頼しているのか、理由をきちんと押さえることだ。

 提案を行う局面は2通りある。1つは提案者側からの働きかけ、つまり計画的かつ能動的に提案する場合。もう1つは、顧客からの働きかけによる受動的な提案の場合である(表1)。

表1●提案の段階別に見た顧客/提案者の目的
表1●提案の段階別に見た顧客/提案者の目的

 顧客からの働きかけによる受動的な提案は、さらに依頼の理由が分かれる。

 1つは、顧客がシステム導入を検討する中で、専門家の意見や判断を参考にしようとしているケース。例えば、見込み客としてはみなしていなかったユーザー企業から、「今、当社で次期システムのあり方について検討中ですが、専門企業である御社から提案していただけませんか」というような提案依頼が来た場合が相当する。

 もう1つは、ユーザー企業である程度の検討は終わっているが、検討結果の検証のために提案を依頼されるケースである。

 いかなる局面であっても、顧客の依頼の目的を明確にすることが、良い提案のカギになる。このため顧客の目的や背景、ニーズをきっちり把握できる方法を身に付けるところから提案の基礎スキルの習得は始まる。

 ベンダーが能動的に提案する場合は、関連するさまざまな情報を収集、分析したうえで提案を実施する。たいていは顧客の動向をよく把握したうえで提案することが可能だ。

 これに対し受動的な提案では、いわば割り込み的な仕事であるために、提案の目的や背景、真のニーズを探るのに十分な期間を確保できないことが多い。そうなると必要な情報を収集・分析できないまま提案することになる。状況を把握しないままでは、顧客が何を望んでいるか分からないので、提案がうまくいかないのは当然である。結果として労力を費やした割には成果に結びつかないことになりやすいので注意が必要だ。

 以下では、提案活動に必要な基本的な知識とスキルについて解説していく*1

提案の3つの成功要因

 提案とは「顧客に戦略や計画の施策、解決策を示し、実施のための意思決定と行動の変容を促すこと」である。つまり顧客が何らかの意思決定と行動の変容を起こさないと提案は成功したことにならない。

 提案が成功するためにはどのようなことを心掛けるべきだろうか。冒頭で述べたように提案はさまざまな局面で行われるが、次の3つの要素は成功要因として共通しているので、よく覚えておいてほしい。

(1)提案の内容が魅力的。
(2)提案するタイミングを外していない。顧客が提案を決裁する仕組みやスケジュールに合っている。
(3)競合企業と競争している状況を意識している。自社だけが顧客と密接な関係であると、油断をしてはならない。

 いかに優れた提案であっても状況やタイミングを外しては目的を達成できない。状況とタイミングに合わせて情報収集や分析、提案したい解決策を検討すべきである。

準備段階で仮説を設定する

 次に、提案するための準備について解説しよう。能動的な提案活動と受動的な場合のそれぞれに関して解説する。

 ITベンダーが能動的に取り組む提案活動は、主に次の3つのステップから成る。

第1のステップ:顧客を取り巻く状況の情報を収集して分析する。同時に提案の目的、背景を明確にする。

第2のステップ:顧客の真のニーズをとらえ仮説を設定する。ここで重要なことは、顧客から言われた範囲の要求や要望に対応するだけでは提案としての価値は認められないということだ。顧客が考えている以上に考え抜いた案を選択し仮説として設定する。これは能動的な提案の必須条件だ。特に顧客側のニーズが明確にできていない段階では重要である。

第3のステップ:仮説を検証して提案の方向性について合意を得る。現実的には、仮説として設定した内容が必ずしも顧客の真のニーズに適合しているかどうかは分からないものだ。対象とする顧客のシステム導入に関する過去の経緯や現状の問題・課題について十分に把握しきれない場合も多い。このため、仮説の内容が適切かどうかの確認をとり、方向性を固める必要がある。

 一方、顧客側からの働きかけによる受動的な提案では、顧客が十分に検討している場合、ありきたりの提案では満足できない。しかし、ビジネスとしての判断も必要だ。突然舞い込んできた時間的に余裕のない提案依頼*2には、それなりの背景がある。例えば、見積もり比較のための相見積もりの依頼では、受注の可能性はあまり高いとは言えない。

 もちろん相見積もりと分かった場合でも、今後のビジネスの関係を考えて対応することが基本である。訴求力のある魅力的な提案であれば、形勢を好転できることもある。

 受動的な提案としては、同業他社とのコンペティションという場面もある。この際は顧客のシステム導入に関する戦略的な目的や理由、背景に関する情報を十分に収集して提案に結び付けなければならない。他社にない持ち味のある有利な提案をするためには、顧客からの情報だけでなく、顧客を取り巻く経営環境や、ビジネス環境まで踏み込んだ情報分析が必要である。顧客のニーズに合致した解決策はもちろん、顧客が期待している以上の解決策を提案しなければならない。

提案のための留意点

 どんな提案であっても、通り一遍の内容では勝ち目がない。提案は、ビジネスのキー・イベントである。成功するか否かは提案力次第と言ってもいい。

 ここで提案のために何をすればよいか留意点を整理しておこう。

(1)能動的で計画的なビジネス活動では、提案をどのタイミングで実施すべきかを設定しておく。
(2)能動的で計画的な提案でも、顧客の要望や商談の進ちょく状況を勘案する。その場合、目的や理由、背景、要求事項、予算、納期、競争関係などを把握して、提案の内容を決める。
(3)受動的な提案では、顧客のシステム化の目的や理由、背景、要求事項、予算、納期、競争関係、さらに過去の経緯などを十分に把握して、対応方法、提案の内容を決める。
(4)上記の項目を円滑に実施できるように顧客と円滑なコミュニケーション関係を構築する。

 顧客の真のニーズを聞き出すためには、それなりの信用関係、信頼関係を瞬時に構築できるようにならなければならない。それにはコミュニケーション能力を鍛えることが不可欠である。

 これらの留意点を踏まえて、提案活動のための具体的なコミュニケーションのあり方について解説しよう。

 能動的でも受動的でも、提案活動は顧客とのコミュニケーションなしには一歩も進まない。個人の家庭にかかってくる電話セールスの大半は、一方的である。電話の受け手としては、予期しないところに、しかも全く用のない商品やサービスを「買いませんか?」と言われても「不要です」としか答えようがない。

 能動的にビジネスを展開する場合には、顧客の状況やニーズを十分把握してかからないと電話セールスと同じことになり、アプローチしても無駄になりやすい。

ヒアリング内容を事前に整理

 提案活動は、顧客を訪問し、導入推進担当者や導入推進の責任者と会って話を聞くという“コミュニケーションの基本”から始まる。この場合、漠然と話を聞きに行くのではなく、事前に提案に必要な情報を整理して、自分なりの意見を持って訪問する(表2)。特に初回訪問では、顧客の関心がありそうな話題を選ぶ。同時に顧客の反応を確かめながら、用意したヒアリングに入るとよい。

表2●ヒアリングの心得
表2●ヒアリングの心得

 経験が浅いうちは、肝心の聞きたいことを聞けずに、顧客に話題を提供することで精一杯になり、時間切れになったりする。これを避けるために、できるだけ顧客側の意見を聞くように努力する。

 そのためにはヒアリングしたい内容をドキュメントとして整理しておき、できれば事前に顧客に「このようなことをお聞きしたい」と連絡しておくのが効果的だ。「こんなことを聞いても話してくれないだろう」とか「断られるだろう」などと、引っ込み思案になってはならない。面談の場でいきなり質問を投げかけるより、事前に聞きたいことを知らせておいた方が、きちんと対応してもらえるものだ。

ディスカッションでは図を活用

 初期の訪問によって得た情報を基に、提案活動は次の段階へと進む。具体的には、ある程度煮つめた提案内容を顧客に説明し、顧客との意思のギャップがないか方向性の確認や修正を行う。この時に必要になるのが、ディスカッション・スキルである(表3)。

表3●ディスカッションの心得
表3●ディスカッションの心得

 ディスカッション・スキルでは、ただ話し合うのではなく、双方の意見を十分に出し合う必要がある。例えば、要求仕様書などに書かれている内容で意味がよく分からないことや、目的が不明確なところは、「なぜ」という疑問を投げかけて、お互いに納得がいくまでディスカッションすることが必要だ。

 プロジェクトで失敗する要因は、最初の要求定義をあいまいにしたまま、双方が都合の良い解釈をすることにある。あいまいにしたままの提案で合意しプロジェクトに入ることは、後々に禍根を残す。ここで効果的なのが、ディスカッションのための手法として「概念チャート」を使う方法である(図1)。人間の考えは多少似通っていても根本的なところで違ったりする。コミュニケーション・ミスはこの概念のねじれから生まれるのだ。

図1●内容を図で表現する「概念チャート」でディスカッションを円滑に行う
図1●内容を図で表現する「概念チャート」でディスカッションを円滑に行う

 ディスカッションの中で相手とズレを感じた時は、図を描いて確認することが確実で早道である。100の議論をするよりも、図を1枚描いて話の中身をはっきりさせた方がよい場合は多い。また、自分の意思が相手に伝わっているか確認することにも図は利用できる。ディスカッションは言葉のやりとりが主体だが、単に対話をするということだけではなく、意思を伝え合うことが目的である。その手段として概念チャートを活用してほしい。

 少人数なら手元のノートや用紙で済む。数人以上になるとホワイトボードやプロジェクタを利用するのがよい。図を描いて話の焦点を絞ることがディスカッションを発散させないコツだ。リーダーシップも合わせて発揮できれば、ディスカッション・スキルを上手く活かすことができる。


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