技法の穴をふさぐ:コスト編 --人月単価は案件ごとにバラバラ公表データで相場を知る

精度高く工数を算出しても、単価の設定がいい加減ではコストがブレる。職種や工程はもちろん、地域やスキル・レベルでも相場は変わる。人月単価の相場はどうすれば把握できるか。専門家に解説してもらった。(本誌)

 「SEの人月単価100万円は高いか、安いか」――。皆さんはどう思うだろうか。あなたが勤めている会社の規模で答えが変わるかもしれない。勤務地が首都圏か地方かでも、答えが違うだろう。人月単価注1の相場観は、人によってバラバラなのが実情だ。

 筆者が勤めるアイ・ティ・アール(ITR)ではベンダーがユーザーに提示した見積もりを精査する機会が多い。そこでの経験から、見積もりの現場では人月単価について次のようなことが起きていることが分かっている。

●ベンダーごとに異なる
 中級SEの人月単価は、大手ベンダーでは95万円から190万円、中堅・中小ベンダーでは65万円から120万円だった。このように大手ベンダー間、中堅・中小ベンダー間ではそれぞれ2倍の開きがあり、大手と中堅・中小では50%以上の開きがあることが分かる。それだけ標準単価の把握が難しい。

●同一ベンダーでも提案により異なる
 あるベンダーの見積書を5件見る機会があった。そこに提示されていたSEの人月単価は180万円、148万円、125万円(2件)、118万円だった。戦略的な単価設定が行われていると推察するが、同じベンダーでも50%もの人月単価の開きが存在している。

●スキル・レベルごとに提示しない
 上級/中級/初級SEなどのスキル・レベルごとの単価を示さず、SE1本で単価を提示するベンダーがある。プロジェクトの内容や要員構成にかかわらず、見積もり工数に単一の人月単価が積算されるために、実態の単価とのブレを発生させてしまう。

中級SEの単価はいくら?

 詳細に見ていくと、相場がいかにバラバラであるか、人月単価がいかに恣意的に決められているかが分かるだろう。図7は、ITRが今年4月に実施したアンケートの結果である。それによると、上級SEの人月単価は125万6000円、中級SEは102万1700円、初級SEが89万1000円だった。上級SEと初級SEでは、40万円近い開きがある。仮にこれを「SE」としてひとくくりで単価を設定していれば、現実と乖離してしまうのも当然である。本来の単価と乖離した相場観では、ユーザーなら払いすぎる可能性が高まるし、ベンダーなら赤字になるリスクが増大する。

図7●職種別の平均単価
筆者らが2007年4月にアンケート調査を実施した
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 コスト見積もりのブレをなくすために大事なことは、相場観の養成である。相場観を養うのに役立つ資料はいろいろある。表1にその一例を示した。「月刊積算資料」と「情報サービス産業 取引及び価格に関する調査」は、数千円程度で入手できる雑誌や刊行物。「SEプライス」は、Webサイト上で公開されている無料の情報だ。以下、それぞれの特徴を紹介しよう。

表1●人月単価の相場を知るのに役立つ資料の例
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地域別・職種別の相場「月刊積算資料」

 一つ目は、地域別・職種別の相場が分かる「月刊積算資料」。FP当たりの生産性データや工程別・職種別参画割合といったデータなどとともに、地域別・職種別の人月単価が掲載されている(図8-A)。同資料は経済調査会が毎月発行する月刊誌で、1954年の創刊と歴史がある。もともとは建設業界向けのデータ集だったが、1990年からソフトウエア開発に関するデータも収録するようになった。

図8-A●地域別・職種別の相場が分かる「月刊積算資料」
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 データの収集・分析は、経済調査会のソフトウエア開発積算研究委員会が担当。更新は毎年4月と11月の2回。

 プロジェクト・マネージャ、SE1、SE2、プログラマの4種類に職種を分類。SE1は要件定義や基本設計を担当するSE、SE2は詳細設計を担当するSEだと思ってもらえればよい。OS、開発ツール、市販アプリケーションの開発に携わるエンジニアは対象外だ。

 最大の特徴は、地域別の単価を示している点だ。東京のほか、北海道、仙台、名古屋、大阪、広島、高松、福岡という計八つの地域それぞれの単価を掲載している。首都圏に比べれば地方の単価は安くなるが、その程度を知ることができる。

 最新版を見ると、東京地区ではプロジェクト・マネージャの単価が101万1000円。これが大阪になると、93万2000円となり1割ほど下がる。札幌や仙台、広島、福岡はいずれも80万~85万円程度。名古屋の単価は93万9000円と大阪よりも高い。経済が好調な名古屋地区は、人月単価にも影響が出ているようだ。

工程別の相場「JISAの調査」

 二番目は、ベンダーにおける工程別人月単価の提示額と契約額が分かる「JISAの調査」である(図8-B)。正式には「情報サービス産業 取引及び価格に関する調査」と呼び、情報サービス産業協会(JISA)が毎年3月に刊行している。

図8-B●工程別の相場が分かる「JISAの調査」
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 同調査では、JISAの会員企業であるベンダーに対してアンケートを実施し、システム開発に関する取引状況や金額について分析。ここに、ホスト系やオープンシステム系といったシステムの種類別、要求分析・企画、設計、開発、運用・移行といった工程別の人月単価がグラフで示されている。

 特徴的なのは、プロジェクト単位に「標準単価」と「実態単価」を調査している点である。標準単価とは、ベンダー社内で用意している社外に提示するための単価。標準的な間接費や作業量、複雑度、役割などを基に計算している。一方の実態単価は、ベンダーとユーザーが実際に契約したときの金額から計算した単価だ。ここでは工程別の標準単価と実態単価を棒グラフで示したが、実際の資料では、プロジェクト単位に標準単価を丸、実態単価を三角の記号で示し、対応関係を明らかにしている。標準単価と実態単価の差はおおよそ5%である。基本的には標準単価よりも実態単価の方が低い。だが、中には品質の要求が特に高いプロジェクトなどで、実態単価の方が高いものもある。なお、同調査では具体的な数値を明示していない。

スキル・レベル別の相場「SEプライス」

 最後に紹介するのは、スキル・レベル別の相場が分かる「SEプライス」。SEプライスは、ITプライスデータバンクというWebサイトの1コーナー。ITプライスデータバンクとは、フリーランスのエンジニア(個人事業主)を支援する団体「首都圏コンピュータ技術者協同組合」が提供する、Webサイト上の相場情報だ(図8-C)。

図8-C●スキル・レベル別の相場が分かる「SEプライス」
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 同組合には現在、約1400人の組合員が在籍(全国組織では約1700人)。フリーランスのエンジニアは、ここに参加することで、共同でシステム開発を受注したり、福利厚生や人材教育を受けたりできる。ITプライスデータバンクは、実際に組合を通じて取引のあった契約情報を登録・集計したデータベースである。

 SEプライスに掲載される単価は、組合員であるエンジニアが実際に仕事を受けた際の月額契約金額と実労働時間から算出している。組合員はフリーランスのエンジニアなので、企業が提示する金額に比べると安めに出ている点には注意したい。

 SEプライスでは、ITスキル標準(ITSS)のスキル・レベルに沿って、人月単価を公開している。ITSSの最高レベルである「レベル7」の平均単価は205万円、標準レベルの「レベル4」では63万1228円となっている。

 様々な切り口によるスキル・レベル別単価を閲覧できるのも特徴だ。例えば、Oracleデータベース技術者でスキル・レベルが5の場合は単価がいくら、といった具合である。主な切り口には、製造や流通といった「業種別」、COBOLやJavaといった「言語別」、ネットワークやWeb、組み込み/制御系といった「業務別」、UNIXやWindowsといった「OS別」、OracleデータベースやDB2といった「データベース別」――など約30ある。

経費と予備費も忘れずに見積もる

 実際のコスト見積もりでは、人件費のほかに、経費や予備費も算出する必要がある。

 経費には開発環境やテスト環境のほか、メールやグループウエアといったコミュニケーション環境の構築費用がある。旅費交通費や事務用消耗品費なども忘れないように算出したい。

 予備費は、システム開発プロジェクトに関するリスクを費用として計上するものだ。工数に含む場合もあるが、コストとして別途積み上げる場合もある。経費や予備費も、それぞれ相場を知り、納得感を持って見積もることが重要である。


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