ステップ2 リスクの絞り込み
プロジェクトに投入できるリソースには限りがあり、洗い出したリスクのすべてに対処することは不可能である。そこで第2ステップでは、対応策の対象となる重大リスクを絞り込む。
まず、洗い出したリスクの「発生確率」と「発生時のインパクト」をチームで分析し、リスクの優先順位付けを行う(表2)。具体的には、発生確率の高さと発生時のインパクトの大きさを3段階(1~3)で評価し、これらを掛け合わせた数値(最大が9、最小が1)をリスクの“重み”と考える。
プロジェクトや投入できるリソースにもよるが、この数値に基づいて重大リスクをおおよそ10~20項目に絞り込む。このとき、単に重みの数値だけで判断するのではなく、すぐに手を打つ必要があるのか、まだ待てるのか、という「対処の緊急性」も考慮する。
ステップ3 対応策の立案
続く第3ステップは、絞り込んだ重大リスクへの対応策の立案だ。これを説明する前に、日本型組織の弱点について触れておきたい。なぜなら、リスク・マネジメントが実際のプロジェクトで奏功するかどうかは、個人のスキルよりも、組織の指向性によるところが大きいからだ。
日本型組織のリスク・マネジメントでは、問題が発生しても組織的な責任逃れができる、後ろ向きの対応策を計画しがちである。それは「プランのためのプラン」、あるいは具体的なリソースの裏づけがなく実効性に乏しい「空のプラン」だ。
次に問題なのは、リスクに関する責任部署をあいまいにしたまま対応策を考える傾向である。個々のリスクに対して、誰が責任を持って対処するのか、リスクを緩和・低減できない場合は誰が責任を取るのか、が明確になっていない。
日本型組織には、1つの対応策にしがみつく傾向がある。「これでうまくいくはずだ」という思い込みで策を練るので、その手がだめだった場合の代替案がない。第1の策がだめなら第2の策、それもだめなら第3の策、という周到さが求められる。
さらに、どのタイミングで手を打つか、すなわち対応策の「トリガーポイント」が明確になっていない。リスクへの対応策は、リスクが発生する前の兆候の段階で実施しなければ意味がない。しかし、減点主義が強い組織では、裏目に出たときのことに気をとられ、対処が後手に回ってしまう。このような組織文化は現場から積極的に変えていく必要がある。
リスク対応策の4つのパターン
では、具体的にリスクへの対応策はどのように考えればよいのか。第2、第3と多様な対応策を検討するためには、リスクの事象だけでなく、その要因にも着目し、1つずつ潰していく形で対応策を練る。このとき有用なのが、PMBOK流の対応策の分類だ。すなわち、個々のリスクに対して、「回避」、「引き受け」、「緩和」、「転嫁」の適用を検討する(図3)。
![図3●リスク対応策の種類](http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/lecture/20061114/253688/zu03.jpg)
「回避」は、リスクが予見される作業を実施せず代替作業によって目的を達成できないか、もしくはリスクの要因を潰すことでリスクを回避できないかを考えること。例えば、未経験の複雑なアプローチは採用しないで、慣れた方法に切り替える、といった方法である。
「引き受け」は、発生時のインパクトよりも対処コストの方が高くつく場合に、そのリスクをあえて引き受けた方が有利かどうかを考えること。100万円のコスト・リスクに対処コストが200万円かかる場合などだ。
「緩和」は2種類考えられる。1つは、リスクの発生確率を最小限にするにはどのような手を打てばよいのかを考えること。もう1つは発生時のインパクトを最小限にする、すなわち、リスクが起きてから後工程への影響を最小限に抑えるにはどうすればよいかを考えることである。
「転嫁」は、自社以外の第三者、すなわち保険会社や顧客、提携先のベンダーなどにリスクを引き受けてもらえないかを考えること。例えば、専門技術者がいないため自社ではコントロールできないリスクへの対応策を、外注契約によって協力会社に任せる場合が該当する。
このように多様な対応策を考え、最適なものを選び、実行策として取りまとめる。その際には、その対応策が誘発する新たなリスクをシミュレーションすることが重要である。重大リスクへの具体的な対応策の例を表3に示した。ポイントは、対応策の具体性、特にリソース(ヒト、モノ、カネ)の裏付けを示すことだ。
せっかく作り上げた対応策を「絵に描いた餅」に終わらせないため、プロジェクトマネジャーは関連部署にリソース獲得の意思表示(訴え)をする必要がある。リスク・マネジメントが制度化されておらず、リソースがプロジェクトに対して十分に割り当てられていない場合、プロジェクトマネジャーは経営幹部を巻き込んででも、リソースを獲得しなければならない。
リスクへの対応策は、誰が、いつ、どんな状況で、どのように実行するかを明記した「アクション・リスト」としてまとめる。それらをWBSに、ワークパッケージとして組み込む。この更新したWBSを使い、対応策が確実に機能するようコミュニケーションのネットワークを拡げておくことが重要だ。