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文書を作成するには、顧客から必要な情報を引き出さなければなりません。その際には、顧客とのコミュニケーションの「質」が鍵となります。そこで今回は、顧客と質の高いコミュニケーションを行うためのポイントを解説します。
■ まずは顧客を区分する
情報収集のための顧客とのコミュニケーションの手段は、ヒアリングやインタビューなど、対話が中心になります。以下、対話によるコミュニケーションを念頭に記述を進めます。
顧客は大きく、下記のように区分できます。
- 経営陣、業務部門の管理職
- 実際にシステムを利用して業務を遂行するチームリーダー
情報を収集するためのヒアリングは、このような区分を考慮したものでなければなりません。
(1)対話の相手と対象とするテーマ
顧客によって、テーマ(収集する情報)の範囲が異なります。ヒアリングは、顧客に応じたテーマで行わなければなりません。テーマがズレると、必要な情報を きちんと収集できないばかりか、相手の時間を無駄にすることになります。それは自身や自社の信頼を落とすことにつながります。なお、提案書や要件定義書な ど文書の種類によって、詳細は異なります。
経営陣:会社レベルのテーマ |
経営理念、経営戦略、ビジネス戦略、経営計画、ビジネス計画、経営上の課題、ビジネス展開における課題・問題点、社内業務における課題・問題点、社内の組織構成、システム化の目的や目標、システム化に対する会社としての考え方など |
業務部門の管理職:業務レベルや部門レベルのテーマ |
業務部門の社内における役割や位置づけ、ほかの業務部門との関連、業務計画、業務の内容・実態、業務上の課題・問題点、部門の組織構成、業務管理や部門管理など |
システムを使うチームリーダー:具体的な業務遂行レベルのテーマ |
具体的な業務の種類とその内容、業務遂行の手順、作業のフロー、業務遂行上の課題・問題点、業務で扱う情報やデータの種類と量など |
(2)対話の順番を考える
顧客へのヒアリングでは、順番が重要です。
「経営陣」⇒「業務部門の管理職」⇒「実際にシステムを利用するチームリーダー」の順番にヒアリングを行えるように、スケジュールを調整します。
会社組織では、「経営陣が会社全体の戦略を立てる」⇒「戦略に沿って各業務部門の管理職が部門としての取り 組み方や方針を策定する」⇒「方針に基づいて現場のリーダーが具体的な手順や方法を決定する」という組織構造になっています。ヒアリングも同様に、大きな 枠組み(抽象的、戦略的な観点)から詳細、具体的なものへという方向で情報を聞き出します。
■ 事前の準備が鍵をにぎる
ヒアリングを行うに当たっては、事前の準備が重要です。きちんとした事前準備ができているかどうかが、コミュニケーションの質を左右します。
きちんとした事前準備ができていれば、顧客とのコミュニケーションの質は高くなり、必要な情報を十分に集めることができます。しかし、事前準備をしない、 または貧弱な準備しかしていないと、思いどおりにコミュニケーションを進めることができず、必要な情報を集めることができません。事前準備としては、以下 のようなものを考えます。
(1)背景知識を収集する
顧客に関連する背景知識を持っていれば、相手に負担をかけずに効率的にヒアリングを進めることができます。背景知識は、一般に公開されている情報や一般的なレベルの知識で十分です。次のようなものが挙げられます。
- 顧客企業の会社情報:企業のホームページや会社四季報に載っている程度の情報
- 顧客が属する業界に関する知識:業界環境、企業動向、市場環境、市場動向、顧客企業の業界における位置づけなどについての一般的なレベルの知識
- システム化の対象となる業務についての知識:業務内容や業務の管理などについての一般的なレベルの知識
(2)対話の目的、趣旨を明確にする
ヒアリングの目的や趣旨は、事前に明確にしておかなければなりません。何のために、どのような趣旨でヒアリングするのかが明確であれば、的確な問い掛けができます。相手も、何を、どのように話せばよいのか把握でき、的確に答えることができます。
(3) 対話の流れ、展開を決定しておく
どのようなテーマについて、どのような流れでヒアリングを進めていくのか、おおよその展開を決定しておきます。骨組みが決まっていると、それに沿ってヒア リングを進めることができ、必要な情報を効率的に得ることができます。また、話題があちこちに飛んで、とりとめのない対話になってしまうのを防ぐことがで きます。
(4)質問すべき項目とその順番を決定しておく
情報を引き出すためにどのような質問をすればよいのか、質問項目をリストアップします。そのためには、文書の作成にどのような情報が必要なのかをきちんと洗い出し、把握していなければなりません。質問のリストアップでは次のような点を考慮します。
a.質問の順番を考えてリストアップ
- 一般的には、重要な、優先度の高いものほど先に持ってくる
- 相手が話しやすい順番、質問に答えやすい順番を考慮する
- 全体から細部へ、大枠から詳細へ、理念的・戦略的なものから具体的なものへ進める
b.曖昧(あいまい)な質問、抽象的な質問、漠然とした質問は避け、具体的な質問にする
c.相手が簡潔に答えられるような質問にする
「はい」「いいえ」で答えられるような質問、簡単な文章で答えられるような質問を行っていきます。実際のヒアリングでは、相手から簡単、簡潔な答えが返ってきた後で、コミュニケーションを重ねて、その答えをより詳しく肉付けします。
対話の目的や趣旨、対話の流れや展開、質問項目は、あらかじめ文書にして、相手に知らせておきます。
■ ヒアリング現場での7つのポイント
実際にコミュニケーションする段階に来たら、以下の7点に気をつけましょう。
(1)まず全体像を説明する
ヒアリングを始めるに当たって、その目的や趣旨、大まかな流れ、質問項目を最初に相手に説明します。これらのことが相手の頭に入っているのといないのとでは、コミュニケーションの質が大きく変わってきます。
全体像の情報は、事前に文書で通知しておきますが、多忙などの理由で相手が目を通していないことも考えられるので、あらためて説明するようにします。
(2)相手の領域で話をする
なるべく相手の領域の言葉を使って対話を進めます。
- 経営陣:経営やビジネスについての言葉を使う
- 業務部門の管理職:業務部門で扱う業務に関連する言葉(経理部門であれば経理や会計の分野の用語、営業部門であれば営業用語など)を使う
- 実際にシステムを利用するチームリーダー:業務の現場で使われている言葉(業務遂行で一般的に使われている言葉)を使う
- 自分の分野であるIT、コンピュータ、通信・ネットワークなどの専門用語を駆使するのは避けるようにする
(3)相手の話をしっかり聞く
コミュニケーションの基本は、相手の話をしっかりと聞くことです。話し合いでも討論でもなく、相手から情報を引き出すのですから、特に聞くことが重要になります。
a.話の腰を折らない
相手が、ひとまとまりの話題を話し終わるまで、質問や意見を差し挟まないで、しっかりと聞きます。
b.聞いていることを示す
相手が話しているときは、真剣に聞いていることを相手に認識してもらうことが重要です。黙って聞いているのではなく、所々でうなずいたり相づちを打ったりして、聞いていることを態度に表します。
c.内容を確認する
相手がひとまとまりの話題を話し終えたら、その時点で内容を確認しておきます。「わたしは、いまの話をこの ようなものであると理解した」ということを、相手の話を要約して自分の言葉で伝えます。こうすれば、相手は自分の話をきちんと聞いてもらっていると確認で きます。また、要約の内容に誤りがあれば相手から訂正があるはずで、それにより正しい情報を手に入れることができます。
d.追加の質問をする
内容確認の時点で、相手の話に対して感じた疑問点への質問、相手の話だけでは不足していたり欠けていたりすると考えられる情報を引き出すための質問をします。
(4)相手が主役であると心得る
自分の都合や論理、考え方を押しつけない、押し通さないようにします。相手の話を聞く場であることを認識して、対話を進めなければなりません。相手の話や 考え方に対する意見、批判、反論などは厳禁です。こうしたことを行った途端、きちんとしたコミュニケーションが取れなくなってしまいます。
(5)対話をコントロールする
顧客とのコミュニケーションでは、SEが対話をコントロールします。
a.話の区切りをつける
ひとまとまりの話題を話し終えた相手が、さらに続けて次の話題に移ろうとするのであれば、次の話題に移る前に一区切りつけるようにします。ひとまとまりの 話題が終わったことを敏感に察知し、相手に不快感を抱かせないようにして(例:「申し訳ありませんが、ここで少し確認させてください」などの言葉を差し挟 む)、自分の方から一区切りつけさせます。そして、そこまでの要約を伝えたり質問したりします。
b.話がそれたら、軌道に戻す
相手の話が、質問の趣旨や対話のテーマなどからずれていきそうになったら、元に引き戻します。相手に不快感を抱かせないようにして(例:「なるほど、そういうことですか。ところで、○○についてですが……」などの言葉を差し挟む)、元の軌道に戻します。
c.テーマや質問の切り替えを行う
相手が、考えが整理できていないために話に詰まったり、知らなかったために質問に答えられなかったりした場合は、素早く別の質問に移り、別のテーマや話題に切り替えます。このときも、相手に不快感を抱かせない言葉遣いで次の地点に誘導します。
このように対話をコントロールできるのは、事前にヒアリングの目的と趣旨、展開、質問項目、質問の順番を明確にしてあるからです。これらに基づいてコント ロールすればよいのです。事前準備が明確になっていないと、コントロールしようにもそのよりどころがなく、成り行き任せに進行するしかなくなってしまいま す。
(6)対話中はメモを取る
ヒアリングの最中は、必ずメモを取ります。 まず、相手が話した内容を簡潔に書き付けます。また、相手の話の中で疑問に感じたことを、その都度メモします。単に疑問に感じただけでは、時間がたてば忘 れてしまい、後で質問できません。質問をして相手の話を聞いて理解し、話の内容のメモを取りながら疑問点を書き記すということを1人で遂行するのが難しい のであれば、2人でヒアリングを行います。例えば1人が質問し、話の内容を理解しながら疑問点を書き付け、もう1人が話を理解しながら、その内容をメモに 残します。
(7)相手を不快にさせない態度でヒアリングに臨む
コミュニ ケーションは相手がいて成り立つものです。相手の協力、相手からの信頼感、相手が前向きに臨んでくれることが質の高いコミュニケーションの基礎です。その ためには、社会人・ビジネスパーソンとしての常識をわきまえた、相手を不快にさせない言動・態度でヒアリングを行わなければなりません。
相手を不快にさせない言動・態度は、いすに正しく腰を掛けて、相手を見て話し、聞き、はっきりとした聞き取りやすい発音で話すことが基本です。一方、次のような言動や態度は相手を不快にさせます。
- 体をずらしていすに座る
- 腕組みして話を聞く
- テーブルにひじをついたり、ほおづえをついたりして話を聞く
- うつむいたまま話し、聞く
- 相手を見下すような言葉遣いで話す
- ボソボソとした聞き取りにくい発音で話す
対話にのめりこむと、無意識のうちに上記のような言動や態度を取ってしまいがちです。自分の言動や態度に気を配りながら対話を進めていくようにすべきでしょう。
また、ヒアリングは、相手に時間を取ってもらっているという考え方で臨むことが重要です。「忙しい中で時間を割いてもらっている」という意識があれば、言動や態度はおのずと決まってくるはずです。