ラヴレター翻訳練習
———————— 20210809 ————————
藤井樹[ふじいいつき]が死んで二年が過ぎた。
そして三月三日[みっか]の三回忌[さんかいき]。雛祭り[ひなまつり] のその日、神戸には珍しく[めずらしい] 雪が降った。高台にある 共同[きょうどう]墓地 [ぼち] も雪の中に 埋もれ[うずもれる] [うもれる]、喪服[もふく]の 黒にもまだらな白 がまとわりついた(纏わり付く)。
博子[ひろこ]は空を見上げた。色のない空からとめどなく降る白い雪は 素直[すなお] に美しかった。雪山[ゆきやま]で死んだ彼が最後に見た空もきっとこんな風だったのだろうか。
「あの子が降らせてるみたいね」
そう言ったのは樹の母の安代[やすしろ] だった。本当なら博子の義母[ぎぼ]になっている人だった。
焼香[しょうこう]の順番が回ってきた。墓前で手を合わせ、改めて[あらめて]彼と向き合った博子は妙に おだやかな[穏やかな] 気持ちでいる自分に 我[われ]ながら 驚いた。歳月というのはこういうことなのか。そう思うと博子はちょっと複雑な 心境[しんきょう] だった。
———————— 202108010 ————————
( 薄情[はくじょう] な女でごめんね)
博子の立てた線香[せんこう]は束の間薄い煙を くゆら[燻らす]せていた が、一粒[ひとつぶ] の雪が先端に触れてその火を消した。それが彼の 悪戯[いたずれ] のように博子には見えた。
胸[むね] が つまった[詰まる] 。
焼香が済むまでの間、雛祭 にちなんで[因んで] 熱い 甘酒がふるまわれた[振る舞われた] 。参列者たちも急に 賑やか[にぎやか] になり、