チェックリストでリスクを査定
リスク・マネジメントは、プロジェクトにかかわる情報の分析から始まる。すなわち、失敗プロジェクトの受注回避を目的とした初期フェーズのリスク・マネジメントでは、できるだけ早い段階でプロジェクトの全体を俯瞰(ふかん)し、前提・仮定の“現実性”のチェック、制約の確認、調査事項の検討、未知項目の洗い出しを行う。
そのための手法として最もお薦めしたいのが「チェックリスト」である。チェックリストとは、プロジェクト全体のリスクを包括的に、あるいはプロセス別/フェーズ別/発生要因別などに分類・整理したもの。建設業界やエンジニアリング業界では1950年ごろから利用されてきたもので、不確実性の比較的高いプロジェクトでも“典型的に発生するリスク”を効率的に査定する場合に威力を発揮する。筆者のクライアントも、ほぼ例外なくチェックリストの充実・洗練に取り組んでいる。
システム構築プロジェクトで典型的に発生するリスクを、発生要因別に整理したチェックリストの例を表1に示した。「顧客の組織体制に起因するリスク」、「要件・仕様のあいまいさに起因するリスク」、「見積もり・提案書に起因するリスク」、「契約に起因するリスク」など10項目に分け、合計40のリスクを列挙している。併せて、発生要因別に具体的な対応策の例も示した。
例えば「顧客の組織体制に起因するリスク」は、「プロジェクトの予算化が遅れ、プロジェクトが見切り発車となる」、「顧客が責任を回避するために、仕様確定が遅れる」、「キーパーソンに要件確定の権限が与えられていない」などがある。その対応策としては、「プロジェクトの受注前に、顧客の組織体制を調査する」、「プロジェクトの開始時に、顧客とともに要求と優先順位を文書化する」などがある。
とは言え、プロジェクトの初期フェーズでは、入手できる情報にも限りがある。だからこそ、「プロジェクトの全体像がどこまで見えていて、どこが見えていないのか」、「見えているリスクで制約になるものは何か」、「見えていないリスクで、調査すれば解明できるものはどれか」、「調査しても解明できないものはどれか」といったことを、チェックリストを用いて明確にしておくことが重要だ。
なお、表1はあくまでも例であり、利用する場合には、各社固有のリスクを追加すべきであることに注意していただきたい。またチェックリストは必ずしも、プロジェクトの受注前だけに利用するものではない。要員獲得やプロジェクトマネジメントなどにかかわる、プロジェクト期間中のリスクと対応策も列挙しておき、適宜参照すべきである。