Part2 ERPパッケージが直面する課題とその将来像

Part1では,これまでERPパッケージにあまりなじみのない読者を想定して,ERPパッケージの歴史とその基本的な仕組みについて説明した。Part2では,現行のERPパッケージ製品が抱える課題,およびその将来像について見ていこう。

 2000年代に入って,企業を取り巻くビジネス環境には2つの大きなトレンドが見られる。

 1つは,加速するビジネスのスピード。今日,M&A(企業の合併・買収)は20分に一度発生し,新製品は3.5秒ごとに市場に投入され,0.1秒ごとにコンテナが一つ出荷されている。企業にとって市場の変化に迅速に対応できるかどうかは,まさに死活問題と言える。

 もう1つは,“ビジネスネットワーク”がこれまでになく重要になっていることだ。90年代までは,企業にとってイノベーションとは新製品開発とほぼ同義であった。しかし2000年代になり,ビジネスパートナーとのコラボレーションにより,顧客に対して自社単独では提供し得ない価値のあるソリューションを提供することが,差別化のための大きなポイントになっている。

 企業における新製品開発の重要性が低下したわけでは決してないが,それだけではなく,ビジネスパートナーと協業し,顧客に新たな価値をいかに迅速に提供できるか,つまりビジネスネットワークの活用も,今日の重要な差別化戦略となりつつある。

ERPに期待される役割の変化

 90年代,多くの企業は「部門最適からの脱却」を目指して,BPRによる全社的な業務プロセスの効率化を追求し,それは一定の成果を挙げた。

 しかし,上記のようなビジネス環境の変化に直面している今,やみくもに効率化を進めるだけでは,企業の成長戦略として,もはや十分とは言えないことは明白だ。差別化戦略により,新たな価値を他社よりも迅速に顧客に提供しない限り,企業の成長は望めない。

 ERPパッケージが企業のビジネス活動の根幹を支える基盤となっている以上,ERPパッケージもまた,企業を取り巻くビジネス環境の変化と無関係ではいられない。ERPパッケージに今日求められる役割は,上で述べたような新しいビジネストレンドをITで加速していくことであるはずだ。

 例を挙げよう。欧州のあるチョコレート会社は,製造プロセスの改良を続け,その品質には絶対の自信を持っていた。また,これまでは卸業者を経由した小売店が主な販売チャネルだった。こうした中,同社はある日,次の事実に気がつく。今日では消費者はチョコの品質を以前ほど重要とは考えておらず,むしろギフトとして大事な人にプレゼントする時の利便性を重視している---。

 従来型の“製品イノベーションの発想”であれば,この変化を手をこまねいて見ているしかないが,同社はギフト発送の利便性を向上させるために,新しいWebサイトを構築することにした。そのために必要なデザイン,消費者へのチョコレート発送,ギフトカードの制作,Web経由の決済などは,同社が行っていなかった業務だが,市場を見渡せばこういった業務を専門に手がける会社がいくらでも存在する。そこで同社は,これらの「ビジネスパートナー」が提供するサービスを,ITを活用して消費者に集約した形で提供することで,大きな成長を成し遂げた。

 この事例に見られるように,従来備えている企業内部のコアビジネスプロセスの堅牢性(総勘定元帳や給与計算など)はそのまま残しつつ,自社の差別化につながる新たなビジネスプロセスの構築を,ビジネスパートナーと連携しつつ迅速に実行できるかどうかが,これからのERPパッケージの価値を判断する重要な基準と言えよう。

従来型ERPパッケージの限界

 では,これまで提供されてきたERPパッケージ製品はこういった新たな期待に応えられているだろうか?

 90年代の“BPR志向”で設計された多くのERPパッケージは,ビジネスパートナーとの迅速な連携が求められる現在,限界に直面している。以下がその理由である。

(1)複数システム間の連携が弱い

 企業内部のトランザクション処理を中心に設計されたERPパッケージは,社内外に存在する他システムとの連携を想定した「基盤」を持っていない。その結果,複数システムを連携する際は個別インタフェースの開発が必要になり,システムの数が増えるとインタフェースの数も指数関数的に増加していく。これがいわゆる“スパゲッティ状のシステム間インタフェース”が出来上がる一因であり,ビジネス変化にITが追従できない大きな理由となる。

(2)再利用性が低い

 ERPパッケージのユーザーインタフェースやビジネスプロセス,アプリケーションロジックがモジュール化されておらず,再利用性が非常に低い“モノリシック(一枚岩)アプリケーション”になっている場合,業務プロセスの変更や社外のビジネスパートナーとの連携は困難である。

 例えば,「設計→購買→販売」というプロセスでPCを販売している企業があるとしよう。この企業が,PCのコストダウンに対応する一つの方法として,現在入手し得る最も安価な部品を利用してPCを設計するプロセスに変更したとすると,「購買→設計→販売」が新たな業務プロセスとなる。モジュールの再利用性が低いと,こうしたプロセス変更に多大な工数が必要となり,ERPパッケージがビジネス変革の阻害要因となってしまうことになる。

(3)パッケージとカスタム開発の対立

 企業内のビジネスプロセスは,他社と同じで構わないプロセス(Part1で述べたベストプラクティス)と,差別化が重要な独自プロセスの2種類に分類できる。90年代に設計されたERPパッケージは,ベストプラクティスは当然提供するが,差別化のための独自プロセスはカスタム開発するしかなかった。その結果,企業は2つの異なるテクノロジを維持管理しなければならなくなり,TCO(Total Cost of Ownership)増大につながる。さらに,システム化の方法も異なるため,両者の融合が非常に困難となる。

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